チオトロピウムのミスト吸入で、COPD患者の死亡率が52%増加する?

羽なければ、空をも飛ぶべからず。
竜ならばや、雲にも乗らむ。
(「方丈記鴨長明


 「COPDの抗コリン薬の吸入で死亡率が上がるって本当ですか?」と看護学生から質問をいただきましたので、ひとりEBM。


質問

COPDの抗コリン薬の吸入で死亡率が上がるって本当ですか?」

P COPDの患者さんに
E 抗コリン薬の吸入治療をすると
C 投与をしない場合と比べて
O 死亡率が増加するか?


そのままPubmedで、検索をします。

検索式:("mortality"[Subheading] OR "mortality"[All Fields] OR "mortality"[MeSH Terms]) AND ("tiotropium"[Supplementary Concept] OR "tiotropium"[All Fields])


35件の文献がヒットです。
無料で読めるBMJを選択してみました。

Mortality associated with tiotropium mist inhaler in patients with chronic obstructivepulmonary disease: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.
BMJ. 2011 Jun 14;342:d3215. doi: 10.1136/bmj.d3215.
*全文が読めます。http://www.bmj.com/content/342/bmj.d3215


今回はメタ分析ですので、JAMAのユーザーズガイドで「総説」をチェックです。
ざっと、吟味しましょう。



<結果は妥当か?第1の基準>

総説は、特定された明確な臨床上の疑問を解決しようとしているか YES(死亡の危険性をアウトカムにしている)
用いた文献の採用基準は適切か 不明(以下の、*補足すべてを満たさない。COPD患者を登録した無作為化並行群間比較試験で、ミスト吸入器を用いてチオトロピウムまたは偽薬を30日以上投与しており、死亡率を報告している論文が採用基準。)

*補足:妥当な結果が得られる可能性が高い論文を選ぶガイド
明確に特定できる比較群があり、アウトカムの重要な決定因子(調査する対象以外)について、同様であるか?比較する各群においてアウトカムと暴露は同様に測定されているか?


<結果は妥当か?第2の基準>

重要な関連研究が漏れている可能性はないか YES(Medline、Embase、製薬会社の臨床試験登録、FDAのウェブサイト、ClinicalTrials.comから2010年7月までに登録された文献を検索。承認されたなかった論文も含め、どうもハンドサーチらしきことも実施している)
採用した臨床研究の妥当性が評価されているか 不明
診療研究の評価に再現性があるか たぶんYES(2人のレビュアーがいる)
結果は研究間で同様か YES(不均質性を示すI2=0%)


<結果は何か?>

総合的な結果は何か チオトロピウムのミスト吸入による全死因死亡の相対リスクが、1.52倍になる。
結果はどの程度の精度か 95%信頼区間のため高い


<結果は自分の患者の診療に役立つか>

結果を臨床に適応できるか? YES
臨床上重要なアウトカムをすべて考慮したか YES。死亡率を評価している。
治療がもたらす利益は、それがもたらす害と費用に見合うものか 死亡が本当に1.5倍増加するなら中止すべき。ただし呼吸機能改善などQOLメリットあるなら、余命によっては投与ありか?

看護学生へ明日、答える言葉>

 COPDの患者さんに、チオトロピウムのミスト吸入の投与は、死亡率を増加する可能性がある。
・服用していない人と比べて、およそ1.5倍のリスク。
・一方で、呼吸状態などのQOLの改善があって、こちらを重視するなら、投与の継続も検討か?。
・TIOSPIR試験が現在進行中で、もう少しはっきりとわかるかも知れない(2014年発表予定)。

気づき)
 ・どうもこのリスクは、以前から指摘されていたようですね。
 ・EBM定例会が延期になったので、ひさしぶりに、ひとりEBM
 ・丁寧にやらないと、お叱りを受けそうですが、課題へのアプローチはトレーニングしておかないと。


方丈記 (岩波文庫)

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